農業普及員育成課程におけるジェンダー配慮と教員のジェンダー観： エチオピアにおける農業技術教育（ATVET）カレッジを例として 島津侑希 （名古屋大学大学院国際開発研究科 博士後期課程／日本学術振興会特別研究員 DC2） エチオピアは、農業が GDP の 45％を占め、就業者の 85％が農業に従事している農業国である。政府は 農業を、国家開発および貧困削減のための最も重要な分野であると位置付けており、最新の国家開発五か 年計画（2010/11-2014/15）でも農業分野を経済発展の主軸とすると明記している。特に、農業生産の主な 担い手である小規模農家の農作物の質と量を向上させるため、農業普及を重視している。エチオピアにお ける農業普及は、地域開発官（Development Agent、以下 DA）と呼ばれる農業普及員によって行われてい る。DA の育成は、農業農村開発省の管轄下にあり、公的な職業技術教育機関である農業技術教育 （Agricultural Technical and Vocational Education and Training、以下 ATVET）カレッジで行われる。 エチオピアでは、女性も農業に広く従事しており、多くの研究で、女性が農村開発において重要な役割 を担っていることが指摘されている。よって、農村女性が新しい技術・知識を得ることは、エチオピアの 農業開発に必要不可欠であるが、特に農村女性への農業普及は難しいとされる。女性への農業普及が困難 な理由としては、１）女性も参加するものであるという認識がない、２）妻が参加することを夫が良く思 わない、３）男性農業普及員は農村女性と接することが困難、などがある。このような背景の中、農業普 及をジェンダーに配慮したものに変更することが必要とされており、現在、ジェンダーに配慮した農業普 及を行うため、政府はいくつかのアプローチを開始している。一点目は女性 DA を増員すること、二点目 は ATVET カレッジや農家訓練センターでジェンダーに配慮したカリキュラム（Gender Sensitive Curriculum） を使用することである。女性 DA を増員することについては、特に開発途上国において、女性農業普及員 の増員が女性の参加率を向上させるという結果が報告されている。しかし、農業普及員の性別よりも個人 の性格・能力の方が重要であるとする結果もあり、単純に女性 DA を増員させるだけでは、問題は解決し ないとされる。報告者が 2012 年に、農村女性および DA を対象として現地調査を行った際にも、男性 DA・ 女性 DA ともに農村女性へ積極的には農業普及を行っておらず、ジェンダーに関する意識も低かった。よ って、現在のところ、女性 DA が直接農村女性の参加率に影響している様子は見られなかった。しかし、 農村女性の女性 DA への期待は高いため、今後 DA の意識や農業普及の方法を変化させることで、農村女 性の参加率を向上させることができるのではないかと予想される。 そこで、本研究では、DA の育成を行っている ATVET カレッジにて、どのようにジェンダーに関する内 容が取り扱われているかについて、特に ATVET カレッジの教員に焦点を当てて考察した。報告者は DA 育成を行っている ATVET カレッジ二校を訪問し、教員および学生にインデプスインタビューおよびグル ープディスカッションを実施した。その結果、教師によって「ジェンダーに配慮したカリキュラム」とい う言葉は違う意味で理解されており、担当教科や、教員になる前の職務経験および家庭背景によって形作 られた個人のジェンダー観に影響されていた。教員が農業普及に関するジェンダー問題を語る際にも、誰 を想像するのかには違いがあり、 最も多いものは 「都市から遠く離れた農村部で夫から虐げられている妻」 であったが、中には「夫」に焦点を当てる教員や、 「妻」と「女性家長」を区別する教員、 「女性 DA」に ついて語る教員もいた。また、農村女性の参加率の向上に関しては、最も重要なのは「農村女性の意識改 革」であると答える教員が最も多く、 「農業普及システム側を農村女性に合わせて変更する」という意見は ほぼなかった。全体を通して、ATVET カレッジの教員は、農家や DA と密に接した経験が無い場合が多い こと、また、膨大な単元を期限内で教えるだけで精一杯であることなどから、自分の担当教科と DA の仕 事を結びつけることに困難を感じているか、もしくは結びつけることを考えたこともなかった。