UX戦略は ROI向上を導く Your ROI Depends on UX

エンタープライズ・ソフトウェア成功の秘訣

An Enterprise Mobility Agency | ChaiOne.com

December 2014

はじめに ソフトウェアの典型的な開発は、お金を浪費し てあまり効果のない製品を生み出してしまうこ とがある。競合に勝ち、市場のリーダーシップ を維持するためには、効果的なソリューション が企業に必要だ[1]。残念ながら、現状ではその ようなソリューションが見つかることはほとん どない。推定では、25%のソフトウェア開発が 失敗に終わり、60%が準標準か非効果的な製品 となる[2]。平均として、プロジェクトを完成す るには、187%の予算オーバー、222%のスケ ジュール遅れとなっている[2]。特にエンタープ ライズを見ると、世界中で企業資源計画(ERP: Enterprise Resource Planning)の51%が失敗 とみなされ、30%が予算オーバー、納期遅れと なっている[3]。このように効果を出せず、予算 オーバーするソフトウェアは事業を弱体化させ るため、それらの失敗を受け止めて向上してい くべきである[4, 5]。例えば、テキサス州キャロ ルトンにあったフォックスメイヤー薬品は、売 上50億ドルの薬品流通企業であったが、基幹業 務システムを十分に活かせなかったため、破産 したとされる[4]。 効果的でないソフトウェアはユーザに受け入れ られないし、生産性を妨げる。だから企業は ユーザの利用性を重要業績評価指標(KPI: Key Performance Indicator)としてチェックし、 ソフトウェアを価値付けするための重要事項と して信用している[6, 7]。実際、企業向けソフト ウェアにおけるユーザの半分以上がそのソフト ウェアの有効性を平均以下と評価する[6]。ソフ トウェアが使いにくい、効果が見られない、面 倒ということでユーザに使われることが少な く、プロジェクトが失敗する約70%の原因と なっている[8-10]。

ソフトウェアに効果がある場合は、プロセスを 自動化してユーザの実際の業務内容をサポート することで、その企業は競争に勝つことができ る[6, 7]。成功するソフトウェアとは、ユーザに よく使われ、生産性が向上し、収益とユーザ、 従業員、顧客の満足度を引き上げるものである [6, 7]。開発努力として、ユーザとその業務に集 中することが有効なソフトウェア開発に結びつ く。従業員は今や、自宅で使う製品と同様の ユーザフレンドリーさと魅力をソフトウェアに 要求する。そのため企業は、プロジェクトの中 心にユーザを置いたソフトウェア開発戦略を採 用することが、財務的に優位になることを認識 し始めている。だからこそ、今や経営幹部の 93%がユーザエクスペリエンス(UX)を最優 先の戦略としているのである[11]。 UXを重視するには、製品とユーザの相互作用に 関わるすべての側面を考慮する必要がある。そ うすることで、ユーザの利用を促進し、製品が ユーザニーズを満たすことが保証され、ユーザ フレンドリーで、ビジネス目標と整合すること になる[2]。ユーザ中心設計(UCD: UserCentered Design)の方法論を活用してソフト ウェアを開発すれば、企業はプロジェクトに失 敗することなく、初期投資を超えた利益を得ら れる。

「最大の悲劇は、ソフトウェアにおける失敗の多くが 予測可能で回避可能であることだ。残念ながら、ほと んどの組織は失敗回避を急務として認識せず、その見 方が組織を害することになり、さらには組織崩壊につ ながることもあり得るのだ。」[4] 2

UXとUCDがビジネス成功のカギ ソフトウェア開発において、過度のコストと明 らかな失敗は予測可能で回避可能である[4]。特 にUX及びUCDの方法論を用いることで、それ が顕著になる。開発段階でユーザ理解を無視す ることは、ソフトウェア要件を構成するのが、 ユーザとそのニーズに対する思い込みだけとい うことを意味する。しかし、そのような思い込 みは不完全で不正確であるため、ユーザから満 足感を得られず、プロジェクト失敗になること が多い。ソフトウェアの開発サイクルにUX戦略 を組み込むことで、ユーザや従業員の現行ワー クフローから直接要件を決定することができ る。これにより、すぐに利用されるユーザフレ ンドリーな製品として、最終的にはビジネスと して成功する。 70%の経営幹部は、ソフトウェアの価値付けと してユーザの利用性が第一であることに同意す る一方で、機能と性能によってそれが決まると 信じる幹部は1%にすぎない[6]。機能はソフト ウェアによるソリューションの重要な要素で あっても、従業員がそれを使わなければその利 点は現実のものとならない。ソフトウェアの利 用性は、その価値提案、使いやすさ、そして製 品における全体的なユーザ満足度に直接関係し ている。 価値提案とは、ユーザがその製品をどれほど望 んでいるかである。例えば、あるソフトウェア はとても使いやすいが、それを使用する人に とってほとんど、または全く価値がないといっ た場合、その製品の価値提案は低く利用されな いだろう。

反対に、ソフトウェアがある状況で特定のタス クを達成するのに役立つとユーザに評価されて いる場合、その製品は価値提案が良く、すぐに 利用されるものだ。ユーザの特性、環境、目 標、業務フロー、制約、そして仕事の悩みのポ イントを理解することで、ソフトウェアは支持 され、望まれるようになる。これらを念頭にお いてソフトウェア要件を確立すれば、開発チー ムがユーザとその仕事、ニーズについての思い 込みを消し去ることができる。 ソフトウェアのユーザビリティも、ユーザの利 用性を決定する大切な要因のひとつである。ソ フトウェアに高い価値提案があっても、使い方 が複雑であったり、難しすぎたりするとユーザ は拒絶する。さらに、追加のトレーニングが必 要なソフトウェアは、中断時間を増大させるた め、所有者のトータルコストが膨れ上がり、技 術サポートも必要になる[2]。ソフトウェアの ユーザビリティ問題には様々な要素がある。例 えば、紛らわしい言葉、思ったとおり実行でき ない機能、直感的に使えない、ソフトウェアの 使い方を覚えるために多くの時間が必要、入力 エラー、読みにくい、扱いにくいナビゲーショ ンなどである。UCDの方法論を用いてUXに着 目すると、最終的なデザインでそれらの問題を 抑えることができる。チームがユーザ理解に重 きを置くことで、現状の仕事において価値があ り、使用可能ですぐに受け入れられ、ユーザを 支援する製品を作り出すことができる。UXと UCDを正しく捉えることで、競合他社より優位 なビジネスを展開できる[1, 6, 7]。

UXに費やした金額は、2倍から100倍になって返って くる。UXに投資する企業はそれをしない企業よりも 財務的に優れている。[9, 12-17] 3

UXとUCDへの投資に関するROI UCDフレームワークを応用することで、ソフト ウェア開発の時間とメンテナンスコストを削減 し、ユーザの満足度を高め、収益を増やすことが できる[6, 7]。NASAは、UXに費やした金額は2倍 から100倍になって返ってくると推定している[9, 12-17]。さらに、UXに投資する企業はそれをしな い企業よりも財務的に優れている[15, 16]。UXに注 力する上位10社は、幸いにも3倍近くのリターン があり、累計では43%増加した。一方で、下位10 社は累計で34%の減少となった[9, 15, 16]。UXを 重視することで、具体的にどのように利益が出せ るのだろうか。UCDフレームワークはプロジェク ト要件を定義・洗練し、開発時間とコストを削減 できるため、より速く市場に出すことができ、 ユーザの満足度を向上させることができる。

そのため、早い段階でユーザビリティ要件を確立す ることにより、優先順位を決めることができ、開発 終盤でのエラーを修正するために必要な時間を減ら すことができる[9, 10]。さらに、開発途中の予期で きない修正の80%がUIに起因しており、残り20% は実際のバグである[19]。これらの問題は、開発努 力の中心にユーザを置くことによって回避可能であ る。明確な要件がなければ、開発時間の40~50% もの時間をソフトウェアの修正作業に使うことにな る。もちろんそのような時間があれば、新しく付加 価値のある仕事にまわした方が良いに決まっている [4]。ソフトウェア発売後の修正にかかるコストは、 開発中にエラーを修正するコストの100倍以上にな る[4, 9, 10]。一方、要件を明確に定義すると開発期 間を33~50%削減できる[19]。

ソフトウェア要件は、技術的な制約・ニーズ (例えば、プラットフォーム、現行のIT環境)か ら特定の機能、性能、そしてUI仕様まで幅広くあ る。ソフトウェアを使う人のためのペルソナを用 いて、プロジェクトの立ち上げ時から ユーザに関係する要件を策定すると、投資リ ターンの4倍以上の損失を抑えることができる [18]。また、ユーザインターフェースは通常、全 コードの47~66%及び開発努力の40%を占め [19]、そして時間の95%をかけた機能は、実際には ユーザの5%しか使っていない[19]。

節約できた時間とコストは、直接的に測定できる。 しかし、目に見えにくい満足度とユーザパフォーマ ンスと同じく、ROIを考えることは重要である[4, 9, 10]。UX及びUCDフレームワークは、少ないトレー ニングで、ユーザエラーが少なく、より使いやす く、開発後のUI変更を最小限にするソフトウェア を作ることができる。さらに、機能的かつ効果的な ソフトウェアは、製品の高い価値提案、ユーザの利 用性増加、そして全体的なユーザ満足度をより高め ることを保証する。

ユーザビリティが良い ユーザに利用される 高い価値提案 習得しやすい 使いやすい 直感的に使える 見た目が魅力的

収益

UX戦略の有無による企業の収益曲線 複雑な ユーザインタフェース 低い価値提案 多くのトレーニングが 必要 ユーザ利用性が低い ユーザビリティが悪い

[9, 15, 16]

4

おわりに 技術が進化し続け、様々なソリューションを探 求することで、競合に勝るものを提供すること ができる。ソフトウェアのユーザ利用性が、ビ ジネスを成功させる主要因であることを考える と、企業はUXとUCDの原則から技術・ソリュ ーションを開発するべきである。従業員が楽に ソフトウェアを使用できるだけでなく、UXを 重視することでプロジェクトコストの削減、満 足度とユーザパフォーマンスの向上といった利 点を組織全体が享受することができる。この 見返りとして、会社の収益性と評判も良くな る。

ユーザがモバイル、コンテクスト・アウェアネ ス(「人や物事の状況や変化を認識する」とい う概念)、ウェアラブルのような技術に親密に なるにつれ、これらの期待はより大きくなるだ ろう。次のプロジェクトでUXとUCDに力を入 れ、初期投資を超えた事業収益を享受してもら いたい。 エンタープライズ・モビリティ代理店である ChaiOneは、広い視野でモビリティを活かした ビジネス変革を支援する。私たちは優れたモバ イル体験を創出するために、UX、UCD、そし てデータに裏打ちされたアプローチを組み合わ せている。石油ガス、エネルギー、小売、金 融、テクノロジーのクライアント向けに多くの 実績がある。

Design

Design

Develop

Iteration X

DevelopMeasure

De ine

Discover

Iteration 2

De ine

Iteration 1

De ine

Design

ChaiOne 5Dプロセスについて

Develop Develop

Deploy

発見(Discover):

定義(Define):

デザイン( Design):

開発(Develop):

展開(Deploy):

内部・外部調査 競合分析 ユーザインタビューでの所見 ビジネス目標 成功基準 発見した結果

ユーザ要件とユーザストーリー ペルソナ 手書きスケッチ エコシステムマップ ビジュアル検討 情報アーキテクチャ コンテンツ管理の戦略・分類基準 技術要件 機能・非機能要件 必須要件 SEM・SEO要件 データ分析要件

ワイヤーフレーム プロトタイプ ユーザビリティ評価 ビジュアル構成 技術アーキテクチャ データモデリング

デイリースクラム コードの繰り返しサイクル (スプリント) ユーザビリティ評価 リリース管理 単体テスト 機能・回帰テスト コード内整理 統合テスト 開発の速度計測・振り返り

ユーザ受け入れテスト リリース管理 データ変換・移行 ユーザ教育 最終文書化 プロジェクト終了 測定

5

著者紹介 エイドリアン・ガルシア(Adrian Garcia) エイドリアン・ガルシアは、ChaiOneのSr. UXリサーチャーであ る。ヒューマンファクター・エルゴノミクス学会誌(The Journal of the Human Factors and Ergonomics Society)で 論文を発表、聴覚インタフェースを設計、海軍研究所のために調 査を実施し、世界的に使用されるWYSIWYGエディタのUXリサー チを先導した。現在はフォーチュン500掲載の企業に対して、 ユーザエクスペリエンス向上を支援している。

エヴェリーナ・タピア(Evelina Tapia) エヴェリーナ・タピアは、ChaiOneのUXリサーチャーである。 視覚、注意、そして認知心理学を主題として、科学雑誌で多数の 記事を発表している。現在、人間の認知に関する専門性を活か し、フォーチュン500企業へのユーザエクスペリエンスの改善、 ビジネス目標の達成を支援している。

訳者紹介 若狹 修(Shu Wakasa) ウェブ解析を軸としたKPI設計、マーケティング施策、コンテン ツ改善のコンサルティングに従事。現在、原点である人間工学 (人類働態学)を基に、ユーザ調査など様々な分野のアプローチ を相互補完的に活かした研究と提案を行なっている。

6

参考資料 1.

Şen, C. G., Baraçli, H., & Şen, S. (2009). A literature review and classification of enterprise software selection approaches. International Journal of Information Technology & Decision Making, 8: 217-238.

2.

Hartson, R., & Pyla, P. (2012). The UX book: Process and guidelines for ensuring a quality user experience. Waltham: Elsevier

3.

Cereola, S, J., Wier, B., & Norman, C. S. (2012). Impact of top management on firm performance in small and mediumsized enterprises adopting commercial open-source enterprise resource planning. Behaviour & Information Technology, 31, 889-907.

4.

Charette, E. (2005). Why software fails. IEEE Spectrum. http://spectrum.ieee.org/computing/software/why-software-fails

5.

Ryan, V. (2009). ERP made easy? Software developers are rediscovering the virtues of user-friendliness. CFO Magazine. http://ww2.cfo.com/technology/2009/02/erp-made-easy/

6.

Sand Hill Group & Neochange (2008). Achieving enterprise software “success”: A study of buyer and seller perspectives on the drivers of enterprise software success.

7.

Sand Hill Group, Neochange, & TSIA (2009). Achieving enterprise software success: Insight from software buyers and sellers on the drivers, expectations and responsibilities for success.

8.

Forrester Research (2008). Rich internet application errors to avoid: A social computing report.

9.

Experience Dynamics (2014). ROI of UX Infographic. https://www.experiencedynamics.com/blog/2014/07/making-strongbusiness-case-roi-ux-infographic

10. Experience Dynamics (2014). 5 proven ROI gains from user experience webinar. https://www.experiencedynamics.com/ training/seminars/5-proven-roi-gains-user-experience 11. Forrester Research (2012). The state of customer experience. 12. Gilb, T. (1988). Principles of software engineering management. Addison Wesley: Reading, MA. 13. Pressman, R. S. (1992). Software engineering: A practitioner’s approach. McGraw-Hill: New York, NY. 14. Nielsen, J. (2008). Usability ROI declining, but still strong. http://www.nngroup.com/articles/usability-roi-declining-but-stillstrong/ 15. Forrester Research (2013). Customer experience index ranking. 16. Watermark Consulting (2013). Customer experience ROI study. http://www.watermarkconsult.net/blog/2013/04/02/ the-watermark-consulting-2013-customer-experience-roi-study/ 17. Human Factors International (2011). The ROI of User Experience with Dr. Susan Weinschenk. https://www.youtube.com/ watch?v=O94kYyzqvTc 18. Forrester Research (2010). The ROI of personas. 19. Strategic Data Consulting (2009). Special report: UX business impacts and ROI.

7

Your-ROI-Depends-on-UX-white-paper_ja.pdf

ライズを見ると、世界中で企業資源計画(ERP: Enterprise Resource Planning)の51%が失敗. とみなされ、30%が予算オーバー、納期遅れと. なっている[3]。このように ...

5MB Sizes 4 Downloads 170 Views

Recommend Documents

No documents