２０１６年２月、アメリカの仏教実践者のための雑誌である「ライオンズ・ロア ー」（Lion’s  Roar）は、ミンギュル・リンポチェの遊行（修行場や聖地を巡りな がら行う瞑想修行）のリトリートの業績を賞賛する独占インタビューの記事を掲 載しました。     そこで、この雑誌の掲載元であるライオンズ・ロアーに連絡を取り、この記事を 日本語に翻訳する許可をいただきました。  日本の皆さまの瞑想の実践に少しで もお役に立てることを心から願いながら、ここにお届けいたします。     ミンギュル・リンポチェ来日講演実行委員会      

ミンギュル・リンポチェ ４年の放浪の修行を終えて   ２０１２年３月、私たちライオンズ・ロアーは、「ザ・ワンダラー」(放浪の修 行者)という記事を掲載しました。チベット仏教の高僧ヨンゲ・ミンギュル・リ ンポチェの秘密の計画、４年間に渡る遊行のリトリート（修行場や聖地を巡りな がら行う瞑想修行）について書いたものです。そして２０１６年１１月上旬、リ ンポチェが帰還したというニュースが入ったのです。  ライオンズ・ロアーは皆 さまに、リンポチェが帰還して間もなくして高弟が行った独占インタビューをお 届けします。リンポチェは４年間のリトリートの全容を、ライオンズ・ロアーの プレミア版で語っています  （リンク）。     リンポチェ、  イ ンドで、サドゥー（ヨガの苦行僧）と共に路上で生活した り、ヒマラヤ山脈の洞窟で瞑想修行をしたりなさいましたね。何がきっか けでこのような遊行のリトリートをなさろうと思ったのですか。     私は、それまでにチベット仏教の伝統的な３年間のリトリート（お籠り修行、隠 とん修行、安居）をしましたが、小さい頃からずっと遊行のリトリートをしたい と一心に願っていました。山好きで、洞窟好きで、偉大な瞑想の僧師や私の恩師 たちに感銘を受けていたからです。特に、ニョシュル・ケン・リンポチェはこの ようなリトリートをなさいました。        

リンポチェがこのリトリートを計画なさっていることを誰にもおっしゃら なかったのは、どうしてでしょうか。     父のトゥルク・オーギェン（ウゲン）・リンポチェは、私にこう伝えました。こ の種の孤独な遊行リトリートをしたかった、と。しかし、父がリトリートをしよ うとした時のことです。お弟子さんたちは僧院に戻るようにと強く懇願しました。 また、父の恩師たちも僧院に留まることを勧められたそうです。そして、父は私 にこう言いました。もし私が心からこのようなリトリートを望むのなら、誰にも 言ってはいけないと。「リトリートから無事に戻ってくるまで、決して誰にも言 ってはいけないよ。」     僧院で居心地の良い暮らしをしていた仏教の師・指導者という生活を後に して、インドで施しを乞いながらヒンズー教のヨギ（修行者）たちと暮ら した無名のサドゥーとしての生活に入られましたが、いかがでしたか。     路上で生活しようと強く決心をしましたが、  すぐできるだろうと思っていたこ とは甘かったです。路上生活ができるようになるまでにかなりの時間を要しまし た。僧侶としての身分を諦めることが一つ。もちろん、快適さや食べ物や生活必 需品、さらに、安全でいたいという願望でさえも手放さなければなりませんでし た。でも、それは「手放す」という瞑想を実践するのに大いに役立ちました。     最高の経験は何でしたか。     クシナガルで経験した臨死体験です。クシナガルは、  お釈迦さまが入滅された （亡くなった）聖地です。私が僧院をそっと抜け出して間もないころでした。激 しい嘔吐と下痢の症状があり、ある朝、あまりに具合が悪かったので、もうこれ で死ぬんだなと確信しました。     症状が悪化した時、私の体、快適さ、チベット僧衣・法衣、また、ミンギュル・ リンポチェという概念に対する執着の壁のようなものを突き抜けるような、超越 したような感覚がありました。最後には、自分自身でさえも手放しました。「た とえこのまま死んでも大丈夫。ここで死んでも問題はない。」そう思った瞬間、 何の恐れもなくなりました。     経典にも書かれているように、様々な外界の刺激から離れていったのです。まず 肉体とのつながりを完全に失いました。次に、素晴らしい経験をしたのです。思

考がなく、感情がなく、概念がなく、主体や客体もない経験。心は明瞭で目覚め ていて、まるで太陽が輝く青空のように、透き通っていて広々としていました。     それから、ある時点で次のような考えが浮かびました。「よし、まだ死ぬ時期で はないな」と。これは、ある意味では慈悲の心に関係があります。そして、肉体 を再び感じられるようになって、目を開きました。水を飲もうとして立ち上がっ たとたんに、突然意識を失って倒れてしまったのです。目が覚めたら、地元のク リニックに横になっていて、私の腕にはブドウ糖の点滴が投与されていました。 次の日、回復したのでそのクリニックを後にしました。     それからどうされたんですか。     この臨死体験の後、私の心はとてもフレッシュになり、瞑想が改善されました。 ありとあらゆることに対して感謝できるようになりました。すべての抵抗が消え ました。そして、環境と一つになったと感じたのです。路上生活を送りながら、 何もかも嬉しく感じることができました。それからというもの、何一つ大きい問 題や困難に遭遇することはありませんでした。     残りのリトリートはいかがでしたか。     夏は、ヒマラヤ山脈に入り、ツォ・ペマやラダックのような（チベット）仏教の 巡礼地を巡って歩きました。冬は、平野に降りてきてインドとネパールのタライ 盆地にある仏教やヒンズー教の聖地で過ごしました。     スケジュールや拘束なしに自由に旅ができるのは、最高でした。鳥が空を飛ぶよ うな、完全な自由を経験しました。もちろん、恐怖に襲われなかったわけではあ りません。私はホームレスでしたし、時にはお金が底をつくこともありました。 私が施しを乞うと、人々はお金や食べ物を恵んでくれました。時には、近寄るな と言われたことも。     その間の瞑想は、シンプルなものに留めました。儀式的なことはせず、何冊かの 経典を持ち歩いただけでした。いくつかの洞窟では、お釈迦さまの写真や仏壇さ えありませんでした。とてもシンプルなものでした。        

今後、ダルマ（法）をお教えになる際に、このリトリートの経験がどのよ うに影響してくると思いますか。     私はもっと経験的なスタイルで教えていきたいです。ただ単に瞑想の実践だけで はなく、態度  や行為についても教えたいのです。見識、瞑想、行為（View,   Meditation,  Conduct）これら三つすべて重要な意味を持っています。私は以前、 見識  （view）と瞑想（meditation）をより強調したかもしれませんが、今は、瞑 想が日常生活をいかに変容させるか、ということに重点を置きたいと思っていま す。知性、心、そして態度、この三つすべてです。     幸福は、感謝と喜びの中に見出せるものです。すべてのものは、明晰さ、愛、智 慧が顕現したものなのです。これはチベット密教の主な見識（主たる見方）に関 連しています。この仏性は、ただ単にあなたの内に備わっているというのではな く、どこにでも見出せます。  見出して感謝するのです。感謝の気持ちを持つ、 これが、幸福の要因となります。     この放浪の遊行リトリートは、私の人生の中で最高の時となりました。過去には 何年にも渡って瞑想していましたし、もちろん瞑想の指導者でもありましたが、 わずかなプライド、わずかな自我が残っていました。この経験を積んで、私が感 じるのは空高く舞う鳥のように自由だということです。私は自由で、どこへでも 飛び立てるのです。     （とは言いましたが、実際に空を飛べるという訳じゃありませんよ。いいですね。 私が飛べると思わないでくださいね。笑）     Lion’s  Roar:  Buddhist  Wisdom  for  Our  Time   February  15,  2016     http://www.lionsroar.com/in-­‐exclusive-­‐first-­‐interview-­‐mingyur-­‐rinpoche-­‐reveals-­‐ what-­‐happened-­‐during-­‐his-­‐four-­‐years-­‐as-­‐a-­‐wandering-­‐yogi/